【民法改正】契約の「取消し」とは?行政書士が効力、無効との違いについて解説

目次

契約の取消しとは

契約が取消である旨を示している法律家
契約が取消である旨を示している法律家

契約の取消しとは、以下のいずれかの事由に該当した時に取消権者が契約を取り消す旨の意思表示を行うことで、契約締結時点に遡って訴求的に取消すことをいいます。
取消しの意思表示については特別な方式が要求される訳ではありません。

取消しの効力

契約の取消しとは、以下のいずれかの事由に該当した時に取消権者が契約を取り消す旨の意思表示を行うことで、契約締結時点に遡って訴求的に取消すことをいいます。
取消しの意思表示については特別な方式が要求される訳ではありません。

「取消し」の効力は無効と同じく「遡及効」です。

しかし、無効とは異なり、効力の発生時期に違いがあります。

無効では、要件の1つを満たした場合にすぐに遡及効が生じましたが、取消しでは、取消権者が取り消す旨の意思表示により遡及効が生じます。では契約を取り消す旨の意思表示は、いつから効力を有するのでしょうか。

民法第97条第1項にて以下のように定められています。

民法第97条第1項

意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。

契約の取り消しは、意思表示によって行います。

よって、民法第97条第1項を適用し、相手に到達した時に効力が発生します。

取消しをできる場合 

取消しをできる場合は以下の3つの場合です。

各項目ごとに解説していきます。

  • 制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人)が単独で締結した場合
  • 意思表示者が契約内容の重要な部分について、錯誤があった上で契約を締結した場合
  • 意思表示者が相手方から詐欺又は強迫を受けて契約を締結した場合

制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人)が単独で締結した場合

未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人について定義・取消しをできる場合・取消権者について解説をしていきます。

未成年者とは

未成年者を表す写真
未成年者を表す写真

定義

未成年者とは、成年者ではない者をいいます。成年の定義は民法第4条にて年齢が18歳未満の者と定義されています。

民法第4条(成年)

年齢18をもって、成年とする。

取消しをできる場合

取り消しできる場合とは、未成年者が法定代理人の同意を得なければならないにも関わらず、同意を得ずに行為をした場合です

では、法定代理人の同意を得なければならない行為とは何でしょうか。

民法第5条第1項及び第3項にて未成年者が法定代理人(保護者等)から同意が必要な行為並びに同意が不要な行為が定義されています。 

民法第5条第1項(未成年者の法律行為)

未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、権利を得、又は義務を免れる法律行為についてはこの限りではない。

民法第5条第3項(未成年者の法律行為)

第1項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。

上記条文から、未成年者が単独で行える行為は、

  • 単に権利を得る行為
    例)贈与を受け取る
  • 単に義務を免れる行為
    例)相手方からの解除の意思表示を承諾する行為
  • 法定代理人が目的を定めて処分を許した財産の処分行為
  • 法定代理人が目的を定めないで処分を許した財産の処分行為

と解釈できます。
 
逆に、未成年者が法定代理人の同意を得なければならない行為は上記4つ以外の法律行為となります。

未成年者による法律行為の取消しについては民法第5条第2項にて、下記のように規定されています。

民法第5条第2項

前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。

従って、未成年者の行った法律行為を取り消すことができる場合とは、『未成年者が単独で行うことができる法律行為以外の行為を法定代理人の同意を得ずに行なった場合』と解釈できます。

取消権者

 未成年者の法律行為を取り消すことができる者は、未成年者の法律行為は同意をする者、すなわち法定代理人ということになります。

成年被後見人とは

成年被後見人を示している写真
成年被後見人を示している写真

定義

成年被後見人については民法第7条及び第8条にて下記のように定義されています。

民法第7条(後見開始の審判)

精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、4親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監査人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。

民法第8条(成年被後見人及び成年後見人)

後見開始の審判を受けた者は、成年被後見人とし、これに成年被後見人を付する。

上記条文から、成年被後見人とは『家庭裁判所により後見開始の旨の審判を受けた者』と解釈することができます。

取消しをできる場合

 成年被後見人による法律行為の取消しについて下記のように規定されています。

民法第9条(成年被後見人の法律行為)

成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りではない。

上記条文から、日常生活に関する行為以外の法律行為については取消権者による取り消しが可能という解釈をすることができます。

日常生活に関する行為の例としては、生活に不可欠な食料を購入するという行為が挙げられます。 

取消権者

成年被後見人の取消権者は『成年後見人』です。

成年後見人には親族又は専門家(弁護士、司法書士、行政書士、社会福祉士等)がなることが多く、最終的には家庭裁判所が選任します。

被保佐人とは

定義

 被保佐人については民法第11条及び第12条にて下記のように定義されています。

民法第11条(保佐開始の審判)

精神上の障害により事理を弁識する能力著しく不十分である者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、4親等内の親族、後見人、後見監査人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、保佐開始の審判をすることができる。

民法第12条(被保佐人及び保佐人)

保佐開始の審判を受けた者は、被保佐人とし、これに保佐人を付する。

 記条文から、被保佐人とは『家庭裁判所により保佐開始の旨の審判を受けた者』と解釈することができます。

取消しをできる場合

保佐人による法律行為の取消しについては、民法第13条第1項及び同条第4項にて規定されています。

民法第13条第1項(保佐人の同意を要する行為等)

被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第9条ただし書に規定する行為については、この限りではない。

  1. 元本を領収し、又は利用すること。
  2. 借財又は保証すること。
  3. 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
  4. 訴訟行為をすること。
  5. 贈与、和解又は仲裁合意をすること。
  6. 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
  7. 贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。
  8. 新築、改築、増築又は大修繕をすること。
  9. 第602条に定める期間を超える賃貸借をすること。
  10. 各前号に掲げる行為を制限行為能力者の法定代理人としてすること
民法第13条第4項(保佐人の同意を要する行為等)

保佐人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる。

上記条文から、民法第13条第1項に掲げる法律行為について、被保佐人が保佐人の同意を得ずに行なった場合に取消権者による取消しが可能という解釈をすることができます。

なお、ただし書は、『日常生活に関する行為』について同意は不要ということを示しています。

しかし、①②⑨はイメージが難しいと思われます。以下が具体例です。

①元本の領収
例)元本部分について返済を受ける行為
※利息部分についたら返済を受ける行為は該当しない。

②借財をすること
例)約束手形の振出

⑨民法第602条に定める期間を超える賃貸借をすること

民法第602条(短期賃貸借)

処分の権限を有しない者が賃貸借をする場合には、次の各号に掲げる賃貸借は、それぞれ当該各号に定める期間を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、当該各号に定める期間とする。

  1. 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃貸借 10年
  2. 前号に掲げる賃貸借以外の土地の賃貸借 5年
  3. 建物の賃貸借 3年
  4. 動産の賃貸借 6ヶ月

上記期間を超える賃貸借を指します。

取消権者

被保佐人の取消権者は『保佐人』です。

保佐人には親族又は専門家(弁護士、司法書士、行政書士、社会福祉士等)がなることが多く、最終的には家庭裁判所が選任します。 

被補助人とは

定義

 被補助人については民法第15条第1項及び第16条にて下記のように定義されています。

民法第15条(補助開始の審判)

精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、4親等内の親族、後見人、後見監査人、保佐人、保佐監督人又は検察官の請求により、補助開始の審判をすることができる。

民法第16条(被補助人及び補助人)

補助開始の審判を受けた者は、被補助人とし、これに補助人を付する。

 上記条文から、被補助人とは『家庭裁判所により補助開始の旨の審判を受けた者』と解釈することができます。

取消しできる場合

 補助人による法律行為の取消しについては、民法第17条第1項及び同条第4項にて規定されています。

民法第17条第1項(補助人の同意を要する旨の審判等)

家庭裁判所は、第15条第1項本文に規定する者又は補助人若しくは補助監督人の請求により、非補助人が特定の法律行為をするにはその補助人の同意を得なければならな旨の審判をすることができる。ただし、その審判によりその同意を得なければならないものとすることができる行為は、第13条第1項に規定する行為の一部に限る。

民法第17条第4項(補助人の同意を要する旨の審判等)

補助人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる。

上記条文から、被補助人・補助人・補助監督人の請求により『民法第13条第1項に掲げる法律行為の一部について、補助人の同意が必要と定めた行為』について、補助人の同意を得ずに行なった場合に取消権者による取り消しが可能という解釈をすることができます。

取消権者

被補助人の取消権者は『補助人』です。

補助人には親族又は専門家(弁護士、司法書士、行政書士、社会福祉士等)がなることが多く、最終的には家庭裁判所が選任します。

意思表示者が契約内容の重要な部分について、錯誤があった上で契約を締結した場合

困っている様子の女性
困っている様子の女性

錯誤とは、上記の通り、意思表示者の認識と現実の間に食い違いがあり、その食い違いを意思表示者が知らないことをいいます。

この錯誤には法的に以下の2つに分類されます。

  1. 意思表示に対応する意思を欠く錯誤(表示の錯誤)
  2. 法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤(動機の錯誤)

意思表示に対応する意思を欠く錯誤(表示の錯誤)

概要

 「意思表示に対応する意思を欠く錯誤」とは、口頭や書面でのミスにより、表明された意図と真の意図が一致しない状況を意味します。

具体例

具体的には、AさんがBさんに100ドルを14,800円で売る意図で契約書を作成したが、誤って金額を100円と記載した場合が考えられます。

この状況では、契約書に記載された100ドルを100円で売るという意思表示と、14,800円で売りたいというAさんの真の意図が一致していないため、「意思表示に対応する意思を欠く錯誤」と判断されます。

法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤(動機の錯誤)

概要

「表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」とは、意思表示の内容と真意が一致しているものの、その基礎となる事実の認識が誤っている状態を指します。

具体例

例として、CさんがDさんから「乙」という不動産を購入しようと考え、その不動産が「A」の地域に位置していると誤解し、「この不動産を購入します」と表明し、不動産「乙」を取得した場合が挙げられます。

このシナリオでは、Cさんの「乙という不動産を購入します」という意思表示の内容と、不動産「乙」を購入したいという真意は一致しているため、「意思表示に対応する意思を欠く錯誤」には該当しません。

しかし、不動産「乙」は実は「B」の地域にあったとしましょう。

この場合、法律行為の基礎となる事情についての認識(すなわち、不動産「乙」が「A」の地域に位置しているという認識)が真実(実際は「B」の地域に位置している)に反しているため、「表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」となります。  

錯誤による意思表示の取消しをできる場合

錯誤における取消しについて、民法第95条第1項及び第3項にて規定されています。

民法第95条第1項(錯誤)

意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。

  • 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
  • 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
民法第95条第3項(錯誤)

錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第1項の規定による意思表示の取消しをすることができない。

  • 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき
  • 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき

 上記条文から、以下のように整理することができます。

錯誤による意思表示を取り消すことができる場合

原則
契約において重要な点について表示の錯誤又は動機の錯誤により誤った契約を締結した場合には、取り消すことができる。

例外
表示の錯誤又は動機の錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、取り消すことができない。

例外の例外
重過失による表示の錯誤又は動機の錯誤をしたケースで、

  • 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき
  • 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき

は、取り消すことができる。

意思表示者が相手方から詐欺又は強迫を受けて契約を締結した場合

犯罪者を表すイラスト
犯罪者を表すイラスト

詐欺とは

詐欺とは、欺罔行為により他人を錯誤に陥れ、それによって意思表示をさせる行為をいいます。

「相手方が故意により欺く行為」と「意思表示者の錯誤による意思表示」に因果関係がある場合に詐欺となります。

詐欺を受けた場合の契約の取り消しについては民法第96条第1項及び第2項にて規定されています。

民法第96条第1項(詐欺又は強迫)

詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。

民法第96条第2項(詐欺又は強迫)

相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその真実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。

 上記条文から、詐欺による意思表示は、契約の相手方が「第三者が意思表示者に対して詐欺をしているという真実について知っている又は知ることができた場合」に限り取り消すことができると解釈できます。

強迫とは

強迫とは、社会通念上許される限度を超えて他人に害意を示し、恐怖の念を生じさせる行為をいいます。

強迫を受けた場合の契約の取り消しについては民法第96条第2項にて規定されています。

民法第96条第2項(詐欺又は強迫)

相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその真実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。

上記条文から、強迫による意思表示は、詐欺とは違い、契約の相手方が「第三者が意思表示者に対して強迫をしているという真実について知っている又は知ることができた場合」に限り取り消すことができるという制限はなく、いかなる場合でも取り消すことができます。

まとめ

概要

  • 契約の取消しは、特定の事由に該当した際に、取消権者が契約を取り消す旨の意思表示を行うこと。
  • 民法第97条第1項に基づき、意思表示の効力は通知が相手方に到達した時から生じる。

取消しをできる場合

  1. 制限行為能力者が単独で締結した場合
    • 未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人が該当。
    • 法定代理人の同意が必要な行為を同意なく行った場合、取り消し可能。
  2. 意思表示者が契約内容の重要な部分について、錯誤があった上で契約を締結した場合
    • 表示の錯誤や動機の錯誤があった場合、重要な点での錯誤に基づく契約は取り消し可能。
    • ただし、錯誤が表意者の重大な過失による場合は、一部例外を除き取り消し不可。
  3. 意思表示者が相手方から詐欺又は強迫を受けて契約を締結した場合
    • 詐欺や強迫による意思表示は原則として取り消し可能。
    • 詐欺の場合、第三者が行った詐欺について相手方が真実を知っていた、または知ることができた場合に限り取り消し可能。

制限行為能力者の定義と取消権者

  • 未成年者:満18歳未満。取消権者は法定代理人。
  • 成年被後見人:後見開始の審判を受けた者。取消権者は成年後見人。
  • 被保佐人:保佐開始の審判を受けた者。取消権者は保佐人。
  • 被補助人:補助開始の審判を受けた者。取消権者は補助人。

錯誤の種類

  1. 表示の錯誤:表明された意図と真の意図が一致しない状況。
  2. 動機の錯誤:意思表示の内容と真意は一致しているが、基礎となる事実の認識が誤っている状態。

詐欺と強迫

  • 詐欺:他人を欺罔行為により錯誤に陥れ、意思表示をさせる行為。
  • 強迫:他人に対し、社会通念上許される限度を超えて害意を示し、恐怖の念を生じさせる行為。
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